虎の門病院に入院した。
依然として実感が湧かない。本当に私はおっぱいを部分切除するのだろうか?
夕方、最後のエコー検査をして、三浦先生から「しこりがほとんどわからなくなってる」と言われた。狐につままれたような気分。自分では、3回目以降の抗癌剤であまりしこりが小さくなっていないような気がしていたから。抗癌剤投与が2回終わった後のエコーで、「このぶんだと消えるかもね」と言われたのがずっと心に残っていて、あれ以降「ああまだ消えてない」といつも手で触れてしこりの存在を確かめていた。でもそれは錯覚だったというわけ?
「私、自分で触ればしこりがわかるんです」と食い下がると先生は「じゃあどこなのか教えて」と迫ったけれど、そう言われて触ってみると、どこにしこりがあるのかよくわからない。さっきまでは確実に手に触れていたのに…。もしかして私の指は、しこりがあった頃の感触を覚えていて、今までは触るたびにその記憶が蘇っていただけなのだろうか?
先生は「もしあなたが今検診に来たら、問題ないと言って帰すところだな」と言う。
「それでもこのまま帰してもらうわけにはいかないんですよね?」と思わず聞いてしまう私。案の定笑われてしまった。「もう癌細胞があることがわかっちゃったからね。いくら消えたように見えても、ミクロの世界では生き残ってるかもしれないし。手術をしないですむという科学的根拠はないんです」出た、科学的根拠。本当に三浦先生は科学の子だ。きっと子供の頃から理屈っぽくて、大人に煙たがられてたタイプだろうなあ。
その後、詳しい手術の説明があった。
もうほとんどしこりは消えているというのに、もともとあった癌細胞の部分にのりしろをつけて、5センチくらいを丸く切り抜くと言われた。
5センチか…。そんなに大きくもない私のおっぱいに、すごく大きい穴が開いてしまうというイメージ。でも実際どんなふうになるのかは、まったく想像がつかない。想像したくないというのが正しい言い方かもしれないけど。
何でこんなにしこりが小さくなったのに、5センチも切らなくちゃいけないんだろう。そう思うと、他にやり方があるんじゃないか、という気もしてくるけど、でも小さく切って癌を取り残して再発してしまうのが一番避けたいことなんだもんなあ。
人間というのは強欲なものだ。というか私が欲深いだけなのか?命が助かるとわかると、次はおっぱいをとにかくキレイに残したいと、そればかり考えてしまう。
先生いわく、おっぱいの下の丸みに沿ってメスを入れて、5センチの円形をくり抜き、そこに周りの脂肪を持ってきて縫い付けるという。そしたら下半分がなくなるだけじゃなくて、左のおっぱい全体が小さくなってしまう。それだったらお腹まわりのいらない脂肪を取って入れてくれないかなあ。そしたらお腹も引っ込んで一石二鳥なのに。そう思ってかなり本気で聞いたのだけど、
「あまり奇抜なことはしようと思わないほうがいいです」
と一蹴されてしまった。本気だと思われなかったのかなあ。
しまいには、私があまりにキレイに残したいとばかり言うので、
「それだったらいっそのこと、全摘して再建しますか?」と先生に逆ギレされてしまった。うーんでもそれだったら、気持ち悪い思いをして抗癌剤治療をして、ここまでしこりを小さくした甲斐がない。それに先生には失礼だけど、乳房を全摘出して再建するのは、一度温存手術をしてみてから、こんなはずじゃなかった、とどうしても納得できなかったら、それからでも遅くはないもんね。なんか三浦先生だったら、思っている以上にキレイに仕上げてくれる気がするし…。
今日ひとつわかったことがあった。放射線治療をしたら、再建手術はしようと思わないほうがいいこと。放射線に当たると皮膚の性質が変わってしまうから、傷をつけたら消えにくくなるのだそうだ。おっぱいをキレイに見せるための再建手術なのに、傷口が目立って却って汚くなるらしい。手術直後は無理でも、何年かたてば健康な人がやる整形手術みたいな「豊胸手術」ができるのかと思っていたので、それはちょっとショック。でも乳房温存手術には、放射線治療はセットでついてくるわけだし…。ということは、15日の手術でできあがった胸と、私は一生つきあっていかなくちゃいけないわけだ。
とにかく三浦先生がキレイに仕上げてくれますように。私がいろんなことを言ったからムカついて手抜きをしたりしませんように。今はそれを祈るだけだ。
虎の門病院の他のお医者さまも、看護師さんも、乳癌患者ネットワークの人も、いろんな人たちが三浦先生を評して、「手術がうまい」「キレイに残すことを考えて手術してくれる」と言っているのを聞いたので、手術後に「思ったよりキレイに残ったじゃん」と心から思えることを、ひそかに期待しているのだけれど。